応募作文 2.「復讐物語」 使用キーワード:『お鍋のふた』『男装の麗人』『思い出し笑い』『初恋』 若くして各地を冒険する主人公(男)。しばらくの間、辺境を彷徨っていたが、 旅の疲れと人恋しさから、暫くぶりに大きな町に逗留を決める。夕暮れの喧騒の中、 壁に彩られた多くの貼り紙を横目に宿屋に転がり込む。 疲れた体をベッドに沈めようとした矢先、見知らぬ男が部屋に飛び込み、助力を請う。 聞こえてくる追っ手の声。悩む間もなくその男は、主人公をタンスの中へ引き込み 2人隠れる。 狭い薄暗がりの中、間近でその男を見ると気品のある端正な顔立ちで、ほのかに良い 香りが漂う。その不意の急接近に主人公は不覚にも動揺し、音を立ててしまい追っ手に 見つかる。 襲い掛かる追っ手、応戦しようとして武器を手に取るが、この騒ぎの張本人の男は 短刀片手にお鍋のふたを持ち真剣な表情。 主人公はこれでは勝ち目は薄いと感じ、男を連れて追っ手を振りきり町の外へ逃亡する。 その男によれば、先日この町は家臣のベジン卿が密かに謀反を起こし、領主が殺されて しまったと言う。 その事実を国王に告げ、領主の無念を晴らすため、協力して欲しいと懇願する。 しかし、乗り気になれない主人公は男を置いて一旦町に戻る。だが、町中には2人の手配書 が貼られており、慌てて男の元へ戻る。 するとそこには男の姿は無く、うら若き乙女が水浴びをしている姿が、そして目が合った 瞬間。甲高い悲鳴とともに、旅の道具一式が雨の如く主人公に飛来し、ノックダウンする。 彼女の本名はユーリ、町の領主トリシア家の娘だという。 追っ手から逃れるため、男装の麗人よろしく男の部下になりすまし逃亡を計ったのだという。 彼女によれば、現在国王がお忍びの視察中で、近々この町に来るとのこと。 その際に、彼女本人がこの領主印を国王に見せれば、ベジン卿の裏切りが証明され、殺さ れた両親の復讐が出来るという。 主人公は、復讐が成功すれば自身の疑いも晴れるであろうし、何よりお鍋のふたで戦いに 挑む、世間知らずな彼女を放っておけないので、その時のミスマッチな光景を思い出し 笑いしながら協力を承諾すると、彼女は可愛らしく頬を膨らませながらも、感謝の言葉を 口にするのだった。 主人公はユーリ共に、視察中の国王の足取りを掴むため、周辺の町などを捜索し、情報を 集めつつ、世間知らずな彼女に一般常識や、旅の方法、戦い方を教えていった。 やがて、次第に主人公とユーリは親しくなり、お互いの心の距離も縮まっていった。 ついに主人公は、国王が元トリシア領主の町に訪れる情報を掴み、喜んで待ち合わせの 場所へ向かう。 しかし、そこには追っ手に囲まれ、力なく横たわるユーリの姿があった。言い知れぬ激情に 身を任せ追っ手を蹴散らすも、すでに彼女は死んでいた。 彼女の亡骸の傍には、手帳が落ちていた。それは彼女のものだった。 そこには復讐を誓った時からの日々が書き記され、町で彼女の両親トリシア領主が圧制を 強いていた事実やベジン卿にひどい仕打ちをしていたのを知ったこと、そして日々主人公と 触れ合ううちに復讐の念が薄れていったこと。 そして最後に自分に何かあった時は、全てを主人公に委ねると書かれていた。 主人公は嗚咽を漏らし、涙を流す。冒険に明け暮れた若い彼にとってそれが初恋であり、 最愛の人との死別だった。 こうして、彼女の復讐物語は主人公自身のものとなる。 元トリシア領主の町の城門前に、多くの警備に囲まれ支配者となったベジン卿が国王の 到着を待っていた。 すると、そこへ棺を引いた主人公が現れ、ベジン卿に迫る。 鬼神の如く次々に警備をなぎ倒し、ベジン卿の間近に迫った時に、国王到着のラッパが 吹き鳴らされる。その隙をついて、主人公に斬りかかるベジン卿。 しかし、主人公はベジン卿を殺すことなく、彼女の亡骸と領主印、そしてベジン卿を 国王の前に差し出すと、静かに町を去っていくのだった。